上昇気流

熱上昇気流(サーマル)

 グライダーの本場ドイツに合わせて「テルミック(Termik)」とも言う。温まって周囲より軽くなった空気が上昇するもの。グライダーのソアリングに最もポピュラーに使用される。
 上昇した空気が冷えて露点温度に達すると雲(積雲)が発生するので積雲はサーマルを見つける目印となる。気象条件によって積雲が発生しない場合もある(ブルーサーマル)。サーマルの到達高度は通常数千メートルだが積雲が発生する場合は雲底高度以下で利用する(日本の場合、有視界飛行のグライダーの雲中飛行は航空法で禁止されている)。
 上空との温度差が大きいなど上昇力が強い場合には積雲は積乱雲に発達し雲の頂上は10,000m程まで達することもあるが、雷撃・降水(雨や雹、着氷)・乱気流による空中分解などの危険がありソアリングでの利用は避けなければならない。ドイツのソアリング開拓期には積乱雲の利用を試みて何人ものパイロットが命を落としている。

サーマル

積雲が点在する空(2019ジュニア選手権・Szeged,Hungary)

積雲2019JuniorSzegedHungary 

 

斜面上昇風

 山などの斜面に風が当たり斜面に沿って上昇するもの。稜線に沿って飛びながら上昇・滞空する。風が吹いている限り飛び続けることができる。滞空時間の記録もこれにより作られた。日本では筑波山や生駒山系などにおいて主に滞空時間を目的に飛行が行われた。
 上昇率は斜面に近い方が大きいがあまり近づきすぎると接触・墜落の危険がある。また往復する場合、Uターンする時には必ず斜面から離れる方向に旋回しないと激突する危険が大。稜線を超えて風下側には強い下降気流や乱流が発生する。
 近年ではサーマルなど他の上昇気流と併用し山岳地での長距離飛行が盛んにおこなわれている。

斜面上昇風

山岳地でのソアリング(Mt.Cook, New Zealand)
Mt.Cook

New Zealand

 

山岳波(ウェーブ、長波、Standing Wave)

山脈に風が当たった時、山を越えた風が風下側で定常的な波動を作ることがある。この波動の上昇する部分を利用する。
波動の下降部分には強い下降気流、低高度にはローターと呼ばれる強い乱気流がある。
 波動は元の山の数倍の高さ(30,000mに及ぶとの説もある)に及ぶため、10,000mを超す高度まで到達できることもある。グライダーの高度記録はウェーブを使って達成された。
 またウェーブは長大な山脈に平行に発生するため上昇帯に沿って進めば高度を維持しながら長距離を短時間で移動することができる。いわば「空のハイウェイ」。近年の飛行距離や飛行速度(区間タイム)の世界記録もウェーブによるものが多い。
 日本においても冬の季節風の強い時期、東北地方の太平洋側に発生するウェーブを使って北関東から岩手方面へのルートを往復する飛行がよく行われている。
 高高度を飛行するには酸素供給装置や電熱防寒着、キャノピー(風防)の霜防止、機体の低温対策などの準備が必要。日本の場合は航空路近くの高度を飛行するためVHF無線機に加えトランスポンダー(自動応答装置)を搭載し航空管制とコンタクトしながらの飛行が必須となる。関連する航空医学・気象・航空力学・空域・航空管制の知識と経験を積んで挑戦する分野。 


ウェーブ

2016/1/1 東北地方に発生したウェーブの雲列(黄色矢印) (NOAA/Suomi NPP VIIRS, 東海大学宇宙情報センター)
日本のウェーブ

 

コンバージェンス(気流の集束)

異なる気団・風がぶつかり合い上昇気流を生ずるもの。大きなレベルでは寒冷前線などの前線。局地的には海風の進入(シーブリーズ)など。ぶつかり合った面(線)に沿って上昇気流が発生し雲の連なりができる(雲ができない気象条件の時もある)。

コンバージェンス

コンバージェンスによる雲(右側) (North Island, New Zealand)
NZコンバージェンス

 

その他

・サーマルウェーブ、クラウドストリートウェーブ

サーマルやサーマルで形成された積雲の列(クラウドストリート)の頂上を越える風が波動を起こすもの。
逆転層※によりサーマルの頂上の高度が抑えられ、その上に速い風が吹いている(ウィンドシェア※)等特定の気象条件で発生する。
上昇率は大きくないが積雲の風上側を上昇して雲の上に出ることができる。

※逆転層:大気は上空に行くほど温度が下がるのが普通だが、上空に異なる気団が入るなどの原因で、ある高度から逆に温度が上がることがある。この温度が逆転する面のこと。ほとんどの熱上昇気流は逆転層で上昇が頭打ちになる。

※ウィンドシェア:ある面を境に風速や風向が大きく異なる現象。

  ・ダイナミックソアリング

上昇気流ではないが、低空の風速の小さい領域と上空の風速の大きい領域の間を上昇・降下を繰り返して飛び続ける手法。
カモメが羽ばたくことなく海面に急降下し風上に向かって反転急上昇することで飛び続けている原理の応用。
 強い風が吹いているとき地上近くは地表との摩擦により風速が小さくなる(ウィンドグラジエント効果)。上空から地表に向かって急降下し地上すれすれで反転・急上昇した場合、通常であれば機体の空気抵抗によるエネルギーロスがあるので元の高度までは戻れないはずだが、上空で風速が増している場合は上昇するに連れて風のエネルギーを受けることになる。現象としてはその分だけ対気速度が増加するので速度を抜けば高度を稼ぐことができる。風から受けるエネルギーがロス分を上回れば飛び続けることができる理屈。
 現実問題として地上に向かって急降下しウィンドグラジエント効果が働く低空で急反転・上昇という飛行を安全確実に繰り返すのは曲技飛行の専門家でも至難の業であろう。実機での使用例はあまり聞かないが、世界チャンピオンIngo Renner氏が約20m/sのウィンドシェアを伴う高度300mの逆転層の上下350m~250m間で急降下・反転上昇を繰り返して20分間の滞空をおこなった例がある。それでも上昇・降下角30度、反転時速度200km/h・荷重3Gというのでかなりの荒業と言える。
 模型のラジコングライダーでは通常のウィンドグラジエント以外に土手など風除けになる地形の風下に急降下させる手法で利用している。